トラブル・イン・ハリウッド(原題: What Just Happened)
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この作品はロバート・デ・ニーロの勧めにより、映画プロデューサー、アート・リンソンが自身の著作をもとに脚本を書いたもので、デ・ニーロからの依頼を受けた生え抜きのバリー・ラヴィンソンが監督を務めた.
業界でも有名なハリウッド映画プロデューサー、ベン(ロバート・デ・ニーロ)が様々な問題に直面する二週間を描いたこの物語は、彼のナレーションで始まる.
「ハリウッドでは、権力が全て.そのパワーを持っているか、それを欲しているか、又はそれを失うのを恐れているかの違いだけ.」という台詞に何か苦い思いが残る.ベンが製作を担当したショーン・ペン(本人)主演の映画がテスト・スクリーニングで酷評された事から彼のプロデューサーとしての立場に暗雲がたれ込める.
映画会社の上役ルー(キャサリン・キーナー)に呼ばれ、彼女のオフィスで待っている間、一枚の映画のポスターが目に入る.俳優の名も監督の名も無く、題名さえも無いこのポスターには数字だけが書かれている.興行収入が結局はものを言う、と静かに笑うベンは自然すぎて怖いくらい.やっと現れたルーは、ベンとエキセントリックな映画監督ジェレミー(マイケル・ウィンコット)に再編集を命令する.ジェレミーの感性に賛同するか否かは別として、自分が信じて創造したものを収益の有無多少の為に変えさせられる辛さがわかる人たちは少なくないだろう.怒り、泣き崩れるジェレミーの気持ちが痛いほど伝わってくる.映画会社にお金を出してもらったからこそ映画が撮れたのだから、子供みたいな行動をとらず妥協すべき、と思った人はこの映画を見終わってから自分が心底のめり込める何かを見つけ創作して欲しい.
と、述べたものの、妥協はブルース・ウィリス(本人)に必要だと言うなら賛同する.ベンが製作するもうひとつ別の映画の主演俳優ブルースが、変更される前の初めの脚本をもとにヒゲをはやし、体重を増やしたから大変.カッコいい映画スターとしてのブルース・ウィリスを期待していた映画会社側は大怒り.
この二つの映画製作の問題の他に、ベンは私生活でも難儀している.最初の妻との間にできた高校生の娘を心配したり、一年半前に別れた二番目の妻と慰謝料でなくした自分の家の両方に未練があったり.
こうしたシーンからシーンへの展開がうまく、キャラクター達にそれぞれ難なくついていけるのは、レヴィンソンとそのスタッフの腕の良さが随所に行き渡っているから.コメディとひとくちで言えない.
舞台はハリウッドで,職業は映画プロデューサーだが、どの職業に就いていても共通する部分が少なからずある.毎日を少しずつこなしながら、問題を解決するよう務めながら、何とかみんなうまくいくように願いながら.そう思うと違和感もない.主演のロバート・デ・ニーロは、自身が過去いくつか映画製作に携わった経験を生かしてかうまい味を出している.皆から嫌われてしまう事が容易い役をあたたかく憎めないように仕上げ、彼の顔も表情も身体の動きも成り切っていて、観ていて安心できる役者だ.
ジェレミー役のマイケル・ウィンコットは(ジョニー・デップがキャプテン・ジャック役を真似たように)キース・リチャーズの感じを出し、風変わりな映画監督を好演.
静かに怒る映画会社のボスをキャサリン・キーナーが、神経の高ぶったエージェント役をジョン・タトゥーロが難なくこなしている.
その上楽しませてくれるのが、ブルース・ウィリス.自分本人を問題児のハリウッド映画スターに仕立て上げ、言う事なす事キメテくれる.
これだけの個性派俳優をまとめるのだから、レヴィンソンは大したものだ.最後にどんでん返しが待っているので、途中であきらめず最後まで観て欲しい.
ところで、この映画に出てくるキャラクターはリンソンが製作した映画ザ・ワイルド撮影時の経験をもとにしているらしい.さしずめジェレミーがリー・タマホリ監督で、ブルースがアレック・ボールドウィンといったところか.二人とも今でも活躍しているところをみるとこういう態度はどうってことないという事なのか.ハリウッド映画業界を舞台にした映画は少なくないが、他の映画と違って、それぞれの気持ちがわかる作品に仕上がっている.
優しい顔をするデ・ニーロを観るのたまにはいい.
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