ソルト(原題:Salt)
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彼女の正体は? 彼女の真の目的は?
今日アメリカで公開された「ソルト(原題:Salt)」は、アンジェリーナ・ジョリー主演のスパイ、アクション映画で、こういった宣伝コピーと、先月下旬10人もの男女がロシアのスパイとして実際に逮捕された事件が相交わり 、かなり注目されてきた今夏の作品のひとつだ.
ロシアからの亡命者ヴァシリー・オーロフ(ダニエル・オルブリフスキー)がCIA本部に現れた事によってストーリーの謎が深まっていく.彼は KGB (КГБ カーゲーベー、ソビエト連邦閣僚会議付属国家保安委員会) が、KAというプログラムの名の下、有能な両親から産まれた赤ん坊達を集め優秀なスパイになるよう育て上げてきたと語る.子供達はアメリカの事を学んだ後、アメリカに移住、指令通りの進学就職をし、本部から指示が来るのを待って日常生活を送り続けているのだと言う彼に、CIAエージェント、エヴァリン・ソルト(アンジェリーナ・ジョリー)は、でたらめの話と一笑する.オーロフはそんな彼女に、大統領暗殺の機を狙って潜伏しているロシアのスパイの名は、エヴァリン・ソルトだと伝える.
疑惑の念を隠せない同僚達に自分の潔白を主張しながらも、ソルトは危険にさらされてしまった夫のマイク・クラウス(オーガスト・ディール)を助けるには、彼女自身が行動に移さなければならない事を悟る.ここから映画のテンポが速くなる.
ハイヒールを脱ぎ捨て走る、事務所にある日常品を使ってバズーカ砲を造ってしまう、高いアパートの窓から抜け出す、高速を走っているトラックから別の走っているトラックへと飛び移る、頭突きしてパトカーを乗っ取る、下降しているエレベーターを忍者みたいに横跳びしながら追いかけるなど次から次へとアクションパック.この間ソルトが無表情を装うので、彼女がいったい何を考えているかわからず、行動のひとつひとつ予測もつかず真の動機がつかめない.
愛する夫を守るため動いているはずなのに彼との関係も今ひとつはっきりしない(魅惑的で何でもできてしまうソルトが、魅力的でない蜘蛛を追う研究家に惹かれる訳がないと静かに思う観客もいるだろう).
アメリカ側なのかロシア側なのか、エヴェリン・ソルトなのか同志チェンコフなのか.
子供の頃のフラッシュバックから実は彼女がスパイとして育てられたらしいとわかっても、両親から引き離され惨い教育を受けて来た子供達皆に同情してしまい悲しくなる.
その上、女優アンジェリーナ・ジョリーがゆえにソルトを応援してしまう.彼女が悪い方につくはずがないと.最初はトム・クルーズが演ずるはずだったソルトをアンジェリーナ・ジョリーが演じてくれてよかったと思う者は少なくないだろう.クルーズはクルーズで味があるが、この配役はジョリーで正解.彼女の美貌、しなやかな身体の動き、体当たりでくるアクション、かっこいいの一言では物足らないスパイを生み出している.
一方でジョリーのスターパワーと対抗しないよう、テッド・ウィンター役のリーヴ・シュレイバーとピーボディー役のキウェテル・イジョフォーがうまく脇を固めている. しかし残念な事に、素晴らしい俳優アンドレ・ブラウアーが演ずる国防長官の出番がまるでないのが残念.彼の深みのある演技を楽しみにしていたのだが.アクション映画として、これはあくまで娯楽作品、エンターテインメントなんだ、と割り切り楽しんだ方が映画に付いて行き易い.
最後のどんでん返しを予測できる人も多いだろうが、頭で考えてしまうと楽しめない矛盾が数々ある為、あまり深読みをしないほうがいいかもしれない.
勿論、彼女の目的は結局わからなかったし人間関係(特に夫との関係)も描き切れていなかった、と思うスパイ映画のファンは、詰めの浅いストーリーに物足りなさを感じてしまうだろう.続編を出したい事が明白な終わり方に、胸の鼓動を押さえながらソルトの次の活躍がたのしみと思う人と、満足できず続編はパスと思う人がいるだろう.ただでさえ少ないこのジャンルの映画.時代が時代だけに、いいシナリオが思い浮かばないのだろうか? 質の高い、中身の濃いのスパイ映画を求めてやまないのは、この映画を観た観客の全てに共通する想いであろう.