Review by The Last Scoundrel
映画『推理作家ポー 最期の5日間』は、ジョン・キューザックがエドガー・アラン・ポーを、アリス・イヴが彼の恋人で囚われたお姫様的(ダムゼル・イン・ディストレス)な役を演じている。
ジョン・キューザックの演技は「やり過ぎ」とも言える過剰なもので、バランスが保てず彼自身それを持続する事ができない。
アリス・イヴはレース製のボディスから胸があらわにもれ美しく目の保養になった。ポーの小説や詩に精通している人にのみわかるレファレンスも多く、それはそれでファンには楽しみであろう。
ただ、観客が知っていると決めつけている部分もあり、これらの小説を読んでいない人たちがついていけないのはどうかとも思う。
この映画を観にくる観客はもとからエドガー・アラン・ポーに興味がある人が大半であろうが、それ以外にもミステリー、サスペンス、スリラー、ホラー、グロ、スプラッタファンだって来る可能性がある事も考慮しておれば客筋も増えるというものだ。殺人鬼がエドガー・アラン・ポーの著作を模倣した方法(模倣殺人)で連続殺人事件を起こすのだが、以下の作品の要素が散りばめられている。
- モルグ街の殺人(原題:The Murders in the Rue Morgue)
- 落とし穴と振り子(原題:The Pit and the Pendulum)
- 大鴉(原題:The Raven)
- 赤き死の仮面(原題:The Masque of the Red Death)
- マリー・ロジェの謎(原題:The Mystery of Marie Rogêt)
- アモンティラードの樽(原題:The Cask of Amontillado)
- 告げ口心臓(原題:The Tell-Tale Heart)
映画の醍醐味も増すであろうから、時間があればこの中の作品のいくつか読んでおくことをおすすめする。
ハンガリーとセルビアで撮影されたこの映画は、1840年代のボルティモアを描こうとしているのだが、不成功に終わっている。
特に最後の方の森の中の教会シーンは大失敗と言えるだろう。
あの時代にあんな石はなかったはずだ。あれ以上花崗岩があればマクベスだって公演できてしまう。エドガー・アラン・ポーと一緒に殺人鬼を捜し、ポーの恋人を誘拐した犯人を見つけるために行動していたフィールズ警部の机もこの時代のものではなく、明らかに新しすぎる。
こういった時代考証に明らかな過ちがあること自体映画の迫真性に影響してしまうのだ。残虐な殺人、ぞっとする事件が異常なまでの急ピッチで続く。
思わず劇場の座席から飛び上がるようなショックを受けるシーンはいくつもある。
おののくひとときを過ごしたい人や、怖がるのが好きなスリラーファン、ホラーファンはがっかりしないはずだ。この映画は、エドガー・アラン・ポーの人生の最期の日々に何が起こったか、偉大なる作家は、なぜ、いかに死んだのかという仮説を立てていて、美しいシネマフォトグラフィーが一巡した頃にはもっともらしく思われる。
観客を丸め込む事がうまいこの映画は名作とは言えないまでも佳作と言えよう。
ただ、エドガー・アラン・ポーのファンはこの映画を観ても新しくポーについて学ぶ事は何もない。怖い映画、ホラー映画が少しでも苦手の人は、この映画を観ない方がいい。
★★★✩✩
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映画を観る前にチェックしておきたいエドガー・アラン・ポーの作品リスト | |
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本 | モルグ街の殺人 |
MP3 | モルグ街の殺人レコーディング |
MP3 | 落とし穴と振り子レコーディング |
本 | 大鴉 |
本 | 赤き死の仮面 |
本 | マリー・ロジェの謎 |
本 | アモンティラードの樽 |
本 | 告げ口心臓 |