パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉(原題:Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides) のレビュー(評論、批評、見解、感想)

パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉(原題:Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides)

シリーズ第四作目ともなると、観客の期待値も下がるのだろうか? 
全ての始まり、『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』のクオリティと成功を越えようして、かえって失敗してしまった第二作目と三作目だが、興行的には成功しているので「もう一度」と思ってしまう人々は責められない.
劇場にまで観に行く価値を問われれば、次の方式で答えを見つけてほしい.
1>2≠4>3

映画館では、キャプテン ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)と一緒に楽しむのが目的、という『パイレーツ・オブ・カリビアン』ファンが大半を占め、中には海賊のコスチュームを着た観客が華を添えていた.そういう人と一緒だと、海賊船のライドに乗り込むように、楽しい気分で映画が始まるのを待ってしまう.

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『生命の泉』は、自ら海で泳いでいる気分になる撮影手法で始まり、謎めいたシーンへと続く.
独特の方法で相棒ギブスを救おうとしたジャックだが、失敗して自分までもが捕まってしまう.
英国王とのやりとりから宿敵バルボッサの登場、手早くシーンが次々と変わり、ロンドンの街を逃げ回るジャックは、ジャッキー・チェンを思わせる.

そんなジャック(スパロウ、チェンではない)とジャックのふりをする正体不明の海賊との剣劇は、ダンスシーンの得意なロブ・マーシャル監督ならではの演出だが、長く続き過ぎて興醒めしてしまう.
スペイン軍を先頭に、ジャック、黒ひげ、アンジェリカ、そして英国王の命の下、元海賊のバルボッサ、が各々の思惑のもと生命の泉を目指し、物語は進んでいく.

ストーリーの矛盾性は追求しないことが暗黙の了解みたいなってしまっているこのシリーズだが、第二作が終わった時点でもっと追求するべきだった.
ジョニー・デップは、アメリカの雑誌インタビューで、シリーズ第二、三作目撮影中、監督ゴア・ヴァービンスキーに脚本が理解し難いと伝えた、と告白した.一方ヴァービンスキー監督は、彼自身も脚本の訳が分からぬが、とにかく撮影続けよう、と応えたらしい.
デップほどの演技俳優と斬新なビジョンで知られているヴァービンスキー監督がわからずしてどうして観客が理解できよう(ここで少しホッとした人もいるかもしれない.自分だけではなかったのだ).
ディズニーランドのアトラクションを娯楽映画大作に仕上げたテッド・エリオットとテリー・ロッシオには敬服するが、第一作目の栄光にしがみつかず、続きをあれだけのものしか書けないのなら、他の者に席を譲るべきだった.
第一作目『呪われた海賊たち』にあった、アクション、宝探しの冒険、お笑い、ラブストーリー、善と悪(善の規準があやしい)といった要素がうまく織りなすエキサイティングな展開は、第二作目『デッドマンズ・チェスト』と第三作目『ワールド・エンド』で次第に衰えていった.第三作においては、登場人物の多さ、ストーリーの中のストーリー、裏切りの繰り返し、訳の分からない謎めいたミステリーと、最後の方はプロットも展開もぐちゃぐちゃで長過ぎる映画が終わるのが待ち切れなかったことを覚えている.
『デッドマンズ・チェスト』の間違えを繰り返さないよう、『生命の泉』のストーリーは比較的わかりやすいが、貧弱さは隠せない.

シナリオより貧弱なのが今回のプロダクションデザイン.
最も大切な「生命の泉」の陳腐さには言葉をなくしてしまった.松田優作の「なんじゃ、こりゃあ」ではないが、あれはいったい何だったんだろう.大学祭にでも使える代物だ.大金をデップに払い過ぎてまともな物を作るバジェットがなかったのだろうか.

ジョニー・デップあっての『パイレーツ・オブ・カリビアン』であるから仕方がないかもしれない.
トリロジーと違い、新作ではメインの主役を一人で背負い、出ずっぱりのデップ.彼を観られる時間が増えたことにファンは喜びつつも、薄味のやや退屈なジャックにがっかりしたのではないだろうか.
デップのキャプテン ジャック・スパロウというキャラクターがここまで人気者になったのは、彼が面白みのないメインキャストではなかったからだ.
真顔でまじめなウィル役のオーランド・ブルームとエリザベス役のキーラ・ナイトレイが堅い主役をうけおってくれたおかげで、ジャックは主人公としての重責もなく、自由で生き生きと、とんでもない所までもいける魅力的なパートだったことを制作者達は忘れてしまったのだろうか.
「目的地がどこなのかなんて関係ない、そこにたどり着くまでの過程なんだよ.(It’s not the destination so much as the journey)」
というジャックの台詞を彼に一言一言返したい.

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ジャックの腐れ縁、ヘクター・バルボッサ役のジェフリー・ラッシュはいつもながらうまいのだが、プロットラインのせいか、押さえの演技に徹している.もう少し胸に秘めた怒りを出してもよかったのかもしれない.
以前もデップと共演しているペネロペ・クルスは、撮影当時妊娠中だったこともあってか(ラッキーなハビエル・バルデム)、アンジェリカとして美しく輝いている.ただ、脚本が彼女の演技力を発揮できるような代物ではなく、彼女自身息抜きで楽しむだけの役柄に終わってしまっている.
新登場、黒ひげ役のイアン・マクシェーンは期待を裏切らず、その威厳と威嚇はシャープ過ぎて怖いくらいだ.しかし、彼もまた陳腐なストーリーの犠牲者として、この歴史上有名な人物の深みが出せないままでいる.
こうした演技俳優を無駄にする演出と脚色にがっかりするばかり.
クルスとマクシェーンの絡みもまるで噛み合ず、せっかくのポテンシャルが台無しだ.父娘のつながりの曖昧さが尻つぼみで終わっている.
また、バルボッサと黒ひげの剣劇はもう一度やり直してほしいくらい情けない.
サム・クラフリンは、オーランド・ブルームと同じくハンサムな美男優だが、異端審問で悪名高く、宗教観に恐ろしささえ感じられるスペイン王とその軍隊と対照的な存在であるはずのフィリップ宣教師を演じきれていない.
可憐さではキーラ・ナイトレイを越えうる人魚シレーナ役のアストリッド・ベルジュ=フリスベだが、彼女もまた人を平気で殺す残酷さと、捕虜となった心細い複雑さが表しきれていない(この映画に出てくる人魚は想像を超えるほど恐ろしい.リトル・マーメイドのアリエルを送り出したディズニー製作とは信じ難い).
演出やストーリーの弱さは、彼ら新人の器量云々の以前の問題で、演技力を伴う美しいブルームやナイトレイと比較してしまうのはかわいそうかもしれない..
大切なエレメントのひとつラブストーリー上、複雑で泥臭いジャックとアンジェリカの恋愛もさることながら、この若手ふたりの淡い恋心もうまく表現できていない.思いを寄せ合うのが早すぎるし浅すぎる.自分を救ってくれた瀕死の男をほっておいて、ジャックのもとに行き、自分の涙を無駄にしないで、と頼むなど理解し難い.

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演技と言えば、うれしいのがカメオ出演者達.
ハリー・ポッターの伯父バーノン・ダーズリー役で有名なリチャード・グリフィスが、ふくよかで、おもしろい表情をたやさない英国王ジョージ2世役をうまく演じている.
そして、逃亡中ジャックが乗り込んだキャリッジ(馬車)に居合わせた貴婦人をジュディ・デンチが好演している、と気づくのに一時かかった.デイム(Dame)の
「えっ?たったそれだけ?(What? That’s it?)」
には大笑いしてしまう.彼女が実においしい役所を演じてくれた.
勿論、ジャックの父,キャプテン・ティーグ役のキース・リチャーズも笑わせてくれる.息子のジャックに「生命の泉」のことを聞かれ、
「俺の顔が生命の泉を見つけたような顔にみえるか?(Does this face look like it’s found the Fountain of Youth?)」 
と答える.遊び心のあるリチャーズに乾杯!といったところだ.

忘れてならないのが、日本人俳優松崎悠希.彼が、海賊ガーヘン役で出演.どこかうれしそうな顔をしてジョニー・デップと並んでいることを日本人観客で喜ばないものはいないだろう.これからもたくさんの日本人俳優がハリウッドで活躍してくれることを望む.

先に述べた数式のように、パイレーツ・オブ・カリビアン第四作は第三作ほどひどくないが、褒められるものでもない.結局は娯楽作品として軽く楽しめるジョイライドである.
人魚と宣教師の行方、閉じ込められたブラックパール号、そしてエンドクレジット後に示されたシーンすべてが続編を示唆している.
この作品のでき具合からみて、新しいトリロジーが始まることは予測できるが、あとはジョニー・デップのやる気次第ではないだろうか.
制作者達が、もう少し彼への負担を減らし、解き放ってあげることを望む.

注意書

  • エンドロール後にシーンがまだ続くので、席を立たずにお待ちください.
  • 3Dにすべきか悩んでいる方へ:剣が自分の方へのびてきたり、物が近くに飛んできたりする感覚が好きでない限り、3Dは必要ありません.暗くて観づらいと思われる方のほうが多いと思います.
  • お子様を連れて行かれる方へ:一応 PG-13 ですが、人魚のシーンが、ディズニーとは思えないほど恐ろしいので(実は大人でも席をのけ反るほど怖い)、気をつけてあげてください.
    女性のふくよかな胸元がたくさん見られますし、人魚が半裸のように見える(見えるだけ)ので、それを気にする方はご注意ください.
  • 津波を経験された方へ:最初の海のシーンや、人魚がたくさん海の中を泳ぐシーンは3Dで観ると特に圧倒される感があるので、トラウマの心配がある方は避けた方がいいかもしれません.

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