ヒックとドラゴン(原題:How To Train Your Dragon)のレビュー(評論、批評、見解、感想)

ヒックとドラゴン(原題:How To Train Your Dragon)

 
[PR] ヒックとドラゴン ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]

ドリームワークス・アニメーションは、『ヒックとドラゴン』によってアメリカの長編アニメーション映画界トップ、ピクサー(ピクサー/ディズニー)との差を縮めたと言っても過言ではないであろう.

ストーリーのテーマや骨組み – 父親との葛藤、野生の動物(敵対するドラゴン)を馴らし育む友情、淡い恋、自己発見、大きな事件(戦い)、関係の修復、問題解決 – はよくある平凡な話だが、卓越したスタッフにかかれば、秀逸な作品になる事を証明するような高度の仕上がりである.

® & © 2010 DreamWorks Animation L.L.C. All Rights Reserved.

暗い夜のシーンから始まるこの映画は、暗闇、夜陰といった光の届かない世界の色合いの濃さを稀にみる深さとテクスチャーで表現し、いったん光が現れた時に抜群の反応を見せる.
有能な映画撮影監督ロジャー・ディーキンスに教えを受けたと言うその光、照明、ライティングの効果は非の打ち所がない.
偉大な画家レンブラントを思わせる最小限の光の魔力にすっかり魅せられてしまう.
これからアニメーション映画を作る上で、ディーキンスのような光と陰をうまく使うコンサルタントの存在がスタンダードになりうる影響力だ.
光と言えば、火、炎、爆発にもそれぞれ違いがあり見応えのあるものになっている.ドラゴンのファイアーパワーであるが故、その壮大さにも息をのむ.

通常イメージされていたドラゴンとは違う、黒豹、犬、猫、コウモリ、山椒魚等の要素を混ぜ合わせたようなトゥース. 才覚のあるタカオ・ノグチがこの従来にない斬新で愛おしくなるドラゴンを作り上げ見事に成功している.
トゥース以外のドラゴンの絵を描いたニコ・マレーのその美しく細かい描写は傑作であり、ヒックが読む本とエンドクレジットの時にしか見られないのは残念である.
オリジナルのドラゴンたちは見るだけでも楽しくて、その表情、所作、動き、飛び方を堪能できる.特に飛行する場面じっくり目を媒体にして身体で感じ取って味わってほしい.
この映画は2Dでもいいが、もし機会があれば是非3Dで観てほしいものだ.

ドラゴンだけではなく、バイキングの村などの背景、空、雲、海、霧、煙等数え切れないほどの素晴らしい美術面.北欧を想わせる灰色のバラエティには感心する.
編集の無駄のなさがストーリーの展開を多いに助けている.

会話も面白さから教訓めいた所まで使い方が実にうまい.そして何より、言葉自体を使わない事によって更に効果がある状態を作れる、という事を知っている監督クリス・サンダース、ディーン・デュボアは目が高い.登場人物(特にヒック、ストイック、そしてゲップ)の台詞がなくても、その気持ちがわかるように描かれている事を信頼したのは大成功である.

® & © 2010 DreamWorks Animation L.L.C. All Rights Reserved.

日本のアニメーションに比べて、アメリカのアニメーション映画のキャラクターは、従来表情に乏しく声優が何も言わなければ、話がのみこめなかった.しかし、近年になってやっと表情にも豊かさが増し、登場人物が何も言わなくても、その表情で、所作で、そして行動で想いが伝わるようになってきている.
それを証明するように、トゥースとヒックの関係の分岐点を描く作品上最も大切な五分以上にわたるシーンに会話は存在しない.この心あたたまる友情の芽生える経過をジョン・パウエルの音楽を背にゆったりと楽しめるのは最高である.虫の好かぬジェイ・バルチェルの声を聞かなくて済む特典もある.
パウエルの映画音楽は非の打ち所がない(ボリュームが少し高すぎるかなと思うシーンがある)が、ヒックが初めてトゥースに触るその瞬間は、その一時を強調するために音楽を止めるべきだった.
勿論このシーン以外は対話があるべき所、音楽があるべき所、音響効果があるべき所を上手に振り分けてある.

戦いのシーンはスケールも大きくスリルがありファンを楽しめるであろう.しかし、闘うという事の結果は大事なものを失う事であるという教訓も含めアクションだけの軽さに終わっていない.
最後に近しいヒックとトゥースのシーンも、切なくそれでいて心の温まる感動の出来である.

声の出演では、ゲップ教官の声を担当したクレイグ・ファーガソンが何と言っても一番.それ以外は取るに足らない.
ゲップ教官役のファーガソンとストイック役のジェラルド・バトラーは、彼らの出身国スコットランドのアクセントを悠々と使っている.ノルウェー、スウェーデン、デンマーク出身で英語を話す役者はたくさんいるのに、何故ヴァイキングがスコットランドアクセントで話すのかと疑問に思った人もいるだろう.
ゲップ教官の声を担当したファーガソンは、間合いもユーモアもあたたかさえもそなえた素晴らしい演技をしているのであまり追求するとお茶を濁すことになるかもしれない.彼がストイックに親としてできる事のアドヴァイスをするシーンは、子供を持つひとの心を打つであろう.
大人のヴァイキングがスコットランドアクセントで話す中、若者は通常のアメリカ英語.
主人公のヒックを担当したジェイ・バルチェルの鼻が詰まった嫌みな声は耳障りで何故こんなのが主役なのだとうんざり.『カンフー・パンダ』のジャック・ブラックの軽量版ともいえるバルチェルは、第二作目も出演が決まっているらしくがっかり.
聞きづらい彼の声と席を思わず反り返る彼の言い回し以外は、満足できる作品なので是非観てほしい.

追記:短編映画『ボーン・クラッシャーの伝説』(原題:Legend of the Boneknapper Dragon) はこの映画の後日譚で、ゲップ教官がヒック,アスティ、スノット、フィッシュ、タフとラフ達を連れて骸骨ドラゴンを見つけに行くというものである.
若き日のゲップのストーリーのアニメーションは本編と違う物でアートセンスに欠け、話自体もいまひとつ面白さにかける.
ちなみに、ドリームワークス・アニメーションのCEOであるジェフリー・カッツェンバーグによると、『ヒックとドラゴン』の続編は2013年位を目処にしているという事である.

関連記事