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Review by Darcon
イランアメリカ大使館人質事件(Iran hostage crisis)のサイドストーリーである、アメリカ人6人のテヘラン脱出を描いた『アルゴ』(原題:Argo)は、胸躍るサスペンスが詰まった宝玉とも言える映画だ。
ワーナー・ブラザーズが40億かけただけの事はある。この映画を観る前にイランの歴史も複雑である事を知っておいて欲しい。
第二次世界大戦後、反植民地主義の抵抗運動をしていたモハンマド・モサッデグが首相に選ばれる。
彼は欧米に踊らされるのではなく、石油を国有化させイラン国民のために使うようにした。
しかし、それを快く思わないアメリカ、イギリス政府が画策、CIAとMI6の裏工作により、彼は1951年に失脚させられてしまう。
その後、モハンマド・レザー・シャー・パフラヴィー(パーレビ国王)による親欧米化路線が28年間続く。そして1979年11月4日、イラン国王モハンマド・レザー・シャー・パフラヴィーを敵視するイスラム過激派グループがテヘランのアメリカ大使館を占拠するに至るのだ。
映画『アルゴ』の中ではジミー・カーター大統領が人質解放へ貢献したと評価されている。
しかし、この事件が起きた当時、アメリカ国民のほとんどはアヤトッラー・ルーホッラー・ホメイニーがレーガンを恐れていたため人質は解放されたと思わされていたのだ。アメリカ人外交官、海兵隊員などの52人の人質は、ロナルド・レーガンが大統領に就任しジミー・カーターが退任するその日までの444日間軟禁されていた。
一方、『アルゴ』に出てくるアメリカ人6人は79日間カナダ大使ケン・テイラー(ヴィクター・ガーバー)にかくまわれいた。大使館員達が切り裂いた書類・ドキュメントをつなぎ合わせる作業がイラン人によって行われており、大使館にいたはずの6人が館外に出た事にイラン革命防衛隊が気づくのは時間の問題であった。
ベン・アフレック演ずるCIA エージェント、トニー・メンデズは、スタジオ・シックスという偽のプロダクション会社を仕立て上げる。
それは、偽のB級のSFスリラー映画『アルゴ』のスタッフとしての偽のアイデンティティをこの6人に与え、彼らをイランから救出するためであった。実話を基にしているとはいえ、脚色は大きい。
アフレック自身実話を基にドラマティックに演出した映画だと言っている。
しかし、6人の大使館脱出に最も貢献したひとり、カナダが誇るジョン・シェアダウンが映画に全く登場しない事に首を傾げたカナダ人も少なくなかった。
シェアダウン以外にも登場しない人物が多々おり、映画のなかでカナダ人達の活躍がミニマルなことにベン・アフレックは批判される。
そのためかアフレックはカナダ大使ケン・テイラーに謝罪、映画の終わりに流れるナレーションに使われるステートメントを彼に依頼するにという事態に至った。“The involvement of the CIA complemented efforts of the Canadian Embassy to free the six held in Tehran. To this day the story stands as an enduring model of international cooperation between governments. “
この映画『アルゴ』がトロント国際映画祭(Toronto International Film Festival)で公開された数日後、エジプトのカイロで米国大使館が襲撃された。
その後すぐリビアのベンガジでロケット弾攻撃によりアメリカ大使、クリストファー・スティーブンスが死亡するという事件が起こる。奇しくも9月11日。
Youtubeに投稿された反イスラム映画『イノセンス・オブ・ムスリム』(原題:Innocence of Muslims)が原因と言われているが真実は定かではない。
この事件へのバラク・オバマ大統領の対応が次期アメリカ大統領選のディベートの争点にもなっていた。
幼い頃からの親友マット・デイモンと共に、映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(原題:Good Will Hunting)でアカデミー脚本賞を受賞したベン・アフレック。
しかし、不名誉なゴールデンラズベリー/ラジー賞(Golden Raspberry Award/Razzies)も幾多か受賞している。常々ベン・アフレックと(アフレック同様グウィネス・パルトローと交際していた) ブラッド・ピットのふたりは演技が下手だと思っていた。
しかし、今回の映画を観てアフレックに謝りたい気分だ。年を経て、40歳になったアフレックにもストーリーに対する理解力が増し、演技ニュアンスもうまくなってきている事から、今回はラジー賞ではなくアカデミー賞の価値がある。
もちろん秀でている方は俳優としての演技ではなく監督としての演出だ。ベン・アフレックにとって『アルゴ』は、実弟を主役に迎えた『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(原題:Gone Baby Gone)、様々な賞を獲得した『ザ・タウン』(原題:The Town)に続く長編監督作品三作目となる。
クリント・イーストウッド同様演技のうまい俳優としてではなく、スキルフルな監督として成長している事を示すものだった。
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