日本では4月に公開予定の『裏切りのサーカス』(原題: Tinker, Tailor, Soldier, Spy)がアメリカで公開された.
本国イギリスでは一足早く九月に公開され好評である.
この作品の原作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』を書いたジョン・ル・カレ(本名:デイヴィッド・コーンウェル)は、イギリス情報局保安部(MI5)やイギリス情報局秘密情報部(SIS又はMI6)で働きながら教師、外交官などの仕事を表向きでしていたらしい.
その頃からペンネームで小説を書いていた彼だったが、彼のスパイ小説『裏切りのサーカス』に出てくる二重スパイのモデルとなる人物に裏切られ、スパイを辞めるに至る.この実際に起きたケンブリッジ5という事件も興味深い.
『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』は、名優アレック・ギネスが主人公ジョージ・スマイリーを演じ、1970年代にBBCよりテレビドラマ化されている.
国際スパイ博物館のピーター・アーネスト氏おすすめのベスト10のひとつで、機会があれば原作を読むかレンタルで観ようと思いつつ、そのどちらもせず現在に至った.
スパイものであるだけにネタバレなしで観られるのもいい、という感覚で向かった劇場は満席だった.
少しだけいつもより遅かっただけなのにと劇場内を見渡すと、ほとんどは中高年の観客.
珍しい.実に珍しい.銀髪や白髪がゆらゆら揺れるのを見て期待感がわき起こる「これはいい映画かもしれない」.
『裏切りのサーカス』の他にも、どういったわけかスパイ映画が目白押しの2011年だった.
子供が主人公の『スパイキッズ』シリーズ第四弾、『スパイキッズ4:ワールドタイム・ミッション』(原題: Spy Kids 4: All the Time in the World)に始まって、ヘレン・ミレン主演の『The Debt』(日本公開未定)、『ミスター・ビーン』で有名なローワン・アトキンソン主演の続編『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』(原題: Johnny English Reborn).そして『スパイ大作戦』が元の『ミッション:インポシブルミッション:インポシブル』シリーズ第四作目、『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(原題: Mission: Impossible Ghost Protocol).
最近スパイ映画を観ていないと思っていた矢先に、子供、家族向けのスパイ映画、重く苦しいアートハウス系のスパイ映画、二番煎じのコメディスパイ映画、アクションの多い娯楽大作のスパイ映画のオンパレードだ.
批評でも評論でもレビューでもない雑記帳なので、軽めに感想を述べたい.
『スパイキッズ4:ワールドタイム・ミッション』は子供が観たり、家族で観るのにはおすすめである.
『スパイ・キッズ』シリーズのメイン・テーマはいつも「家族の大切さ」なのだが、この作品ほどそれをうまく訴えているものはない.アンダーレイティッド俳優ジェレミー・ピヴェンによる所が大きいのだが、彼の台詞は胸打つものがある.
重要なメッセージもさることながら、子供達の大好きなスパイ・ギャジットもおもちゃ屋さんに行った気分で勢揃い.しゃべれる犬をはじめ、ちょっと下品に笑えるシーンも多く、家族揃って楽しめる.
『ダーク・エンジェル』(原題:Dark Angel)のジェシカ・アルバが好きな大人には、彼女のスキンタイトスーツ姿が見られるというおまけつき.
そういえば、ジェームズ・キャメロンが描いた世界の完結をもっと詳しく観たかった、と今も残念に思う.
『The Debt』は、観終わって苦しくなった.観ない方がよかった、と後悔さえした.
この映画は、実は一番期待していた作品だった.
実にエンジョイアブルな作品『RED/レッド』(原題: Red)で、敵のスパイと恋愛に陥った元・MI6の名狙撃手を怪演したヘレン・ミレンが、前回のコメディではなく、お得意のシリアスドラマをじっくり見せてくれる.
ミレンをはじめ各自俳優の演技はすばらしいのだが、胃が痛くなってしまった.
戦犯としての裁きを逃れて潜伏するナチの残党を、法廷で裁くため、本国に連行する任務を帯びたモサド(イスラエル諜報特務庁)エージェントたちの物語は、悪役の捨て台詞さえ深く考えさせられる.
いつもハッピーエンドを願っている訳ではないのだが、何とも後味が悪い.
これは観客のテイストの問題で好き嫌いが分かれるだろう.
ローワン・アトキンソン演ずる『ミスター・ビーン』の大ファンなのだが、『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』はいただけない.
久しぶりにアトキンソンが観られる事がうれしいだけで、笑える所も本当に少ない.パロディも古さというより使い古されたもので、面白みに欠ける.
ビル・マーレイの『知らなすぎた男』(原題:The Man Who Knew Too Little)の方がマシだと言うのは酷であろうか.
『ジョニー・イングリッシュ』はシリーズ化せず、ここであきらめ、アトキンソンには他に彼の魅力を発揮できるプロジェクトにうつってほしい.
レスリー・ニールセンの『裸の銃を持つ男(原題:Naked Gun)』シリーズで口直しが必要だった.
『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』は、ポーラ・パットンの美しさ目当てで、正直何も期待せず観に行った.それがよかったのかもしれない.
これはスパイ映画というより観客を楽しませてくれる娯楽アクション映画.
『M:i:III』ではあまり気に留めなかったサイモン・ペグが笑わせてくれ、タフなジェレミー・レナーのヴォーナラビリティには驚かされた.何より、あの年であそこまでのど根性アクションスタント、トム・クルーズに敬礼.
クルーズのアクションシーンは素晴らしかったが、実はラストシーンの彼の愛する女性を見る、見守る表情が一番好きだった.
さて、本題の『裏切りのサーカス』だが、スパイというのはこういうものであったのか、と思わせてくれるいい作品だった.
他のスパイ映画と比べ、キャラクターの掘り下げ方が違う.深みがあって浸透力のあるシナリオもいいが、ゲイリー・オールドマンがすばらしい.台詞の言葉もなく、顔のしわだけで演技する彼に、ただついていってしまう.
ジョン・ハートやマーク・ストロングもうまかったが、去年のアカデミー賞受賞者コリン・ファースには、もう一押ししてほしかった.
映画が終わった後、
「こういうスパイ映画が観たかったんだよ」
「いいねえ」
「こういうのをもっと創ってほしいね」
と言い合う中高年の観客たちの後をここちよく歩いていった.
「本物のスパイってのは、ああなんだろうね」
「そうだね」
いつもは好きではない続編を見たくなってしまう、そんな映画だった.
ただ、最新のギャジットをたくさん使う、テクノロジー満載のアクション映画でないと楽しめない人には、古くさくてスローな映画かもしれない.(雷)
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レスリー・ニールセンのスパイ物は『スパイ・ハード』じゃないのですか?
もう観たんですか?四月まで待ち切れない気分です。このブログみて安心しました。
『裏切りのサーカス』期待してます。
『裏切りのサーカス』の俳優の感想ありますが、トム・ハーディはどうでしたか?