☞SPOILER ALERT ネタバレを含みます SPOILER ALERT☜
Review by Darcon
前のページからの続き元CIAアントニオ・J・メンデスの著作 『The Master of Disguise』と、雑誌 WIRED(ワイアード)に掲載されたジョシュア・バーマンの記事『The Great Escape』を基にしたクリス・テリオの脚本は、ぞくっとする緊張感と気の利いたユーモアのバランスがうまくとれているペースをうまく保っている。
続きすぎる緊迫感はメロドラマの罠にはまってしまうし興ざめしてしまう。
この映画は、使い古されたチェイスシーンや誤解された憐れなキャラクターなどのクリシェがあるものの、いつの間にか観客を巧みに引き寄せている。
アフレックのうまい所は、テンションの上げ方だけではなく、アクセルを踏みっぱなしにせず観客が息をつく合間を与える事にある。
緊張感、恐怖感、そしてユーモアを混ぜ合わせ、時に注意を引き、時に力を緩めるといった見事な手法を用いて観客の感情を左右するのだ。有能なスタッフや出演者に恵まれると成功率も上がるということをアフレックは知っている。
シネマフォトグラフィー、音楽、脚本、俳優どれをとっても素晴らしい。名作『猿の惑星』(原題:Planet of the Apes)で特殊メイクを担当し、アカデミーメイクアップ賞の設立に影響を及ぼした実在のメイクアップアーティスト、ジョン・チェンバースをジョン・グッドマンが好演している。
CIAの企画に助言したプロデューサーたちは何人もいた。
それを一人にまとめて合成させた人物が、アラン・アーキン演ずるレスター・シーゲル。
ハリウッドプロデューサーとしての素晴らしい演技をみせたアーキンは、アカデミー賞候補に挙がるに違いない。アフレックのCIAボス役のブライアン・クランストン、疑い深いエアポートガード役のファショード・ファラハットも非常にいい。
こうした優れた演技をする俳優陣がある一方で、カナダ大使公邸に隠れていた6人の演技は、キャラクターを深く掘り起こす間も与えられずいまひとつであった。
いい役者たちなのかもしれないが、それも表せずに終わってしまう。観客の一人はこの6人に感情移入ができず最後の方は救出されなくてもどうでもいい気がしてしまったと言っていた。
カナダ大使公邸でワインを飲んでゲームをしているような暮らしぶりばかりを見せられればわからないでもない。しかし、いくらテレビで何回も見ているような安っぽいテイクオフシーンでも、脱出が成功している歴史を知っていても、イランを脱出するエアポートの場面は胸が躍ってしまうのだ。
彼らの成功を祈らずにはおれず、映画『アポロ13』(原題:Apollo 13)を観た時と同じ感覚だった。エンディングにはアフレックの迷いを感じたものの、それでもよかった。
映画が終わって欲しくなかったくらいだ。この感情こそ良作を観た証拠か。政治的な公明正大さはない。
ポリティカル・コレクトネスなんてありはしないと思う観客もいるだろう。実在するのかしないのかさえわからないカナダ大使公邸で働いていたイラン人のメイドが、自身の命をかけてくれたにもかかわらず認識さえされていない。
他にも実在する人物でこの6人救出に貢献した各々も評価されていないのは確かだ。イラン人もこの映画を嫌悪しているであろう。この映画のようなイラン人を描かれれば無理ない。
しかし、「Great Satan(大悪魔)」と呼ばれ続けてうれしいアメリカ人なんかいない。
アメリカ人として正直に言わせてもらえば、世界中から自分たちに謝れ謝れと突っつかれるのにはもううんざりという感が拭えない。お互いを非人間的に演出しないのがベストだろう。
いい映画作りをしている。特に監督の演出は特筆すべきものだ。
観る事をおすすめる。
★★★★✩
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