SUPER8 / スーパーエイト (原題:Super 8) のレビュー(評論、批評、見解、感想)

SUPER8 / スーパーエイト (原題:Super 8)

どういう映画なんだろう? どういうストーリーなんだろう? 
少しずつ発表される情報やトレーラーの動画.
人々の興味をそそる術を心得、先が読み難いJ・J・エイブラムスの作品は、その深さ、面白さ、新鮮さで観客を魅了してきた.
エイブラムスの脚本・監督で、スティーヴン・スピルバーグが製作となれば初夏の娯楽大作と期待してしまうのも無理ない.
この映画の「サプライズ」を、わくわくした気持ちで観たい人には、このレビューをこれ以上読まず、映画館に行く事をおすすめする.
ある程度の内容がわかっても良い(核心のネタバレは無し)、もう試写等で観たからいい、という人のみ、この先を読んで欲しい.

© 2011 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

スーパーエイトはキルトのような様々な要素を持ちかねている特異な映画だ.
ジャンルでいえば、ファンタジー、SF (Sci-Fi)、アクション、アドベンチャー、スリラー、サスペンス、そしてエイブラムスによると、何よりも、モンスター映画らしい.
憧れのスピルバーグを讃え、敬意を表し、映画創りに対する情熱を再現しようとした彼の憶いは、スピルバーグのファンでなくても、映画を創った事のない人にでも伝わってくる.

この映画の二本柱は、少年期のラブストーリーと謎めいた「何か」の解明である.
この二つをうまく組み合わせようとしたエイブラムスの努力は認めるが、後者が完全に負けている.
この映画の良さはすべてこどもたちであって、モンスター(宇宙生物)ではない.
主役の少年ジョーを演ずるジョエル・コートニーの素朴なあたたかさ、秘めた悲しさ、成長し強くなっていくプロセスが素晴らしい.彼のはにかんだ表情一つで、その気持ちが心に響いてくる.デビュー作を満点で飾る演技である.
こどもながらどこか大人びた少年を演じたヘンリー・トーマスを思い出す人もいるだろう.
そして、ジョーのあこがれの少女アリスを演ずるエル・ファニング.彼女の静かで確実な演技は、コートニーと共にこの映画の宝である.
ファニング主演の2008年映画『Phoebe in Wonderland』を観た時、天才子役とは彼女の事だと感心した.先生役のパトリシア・クラークソンの名演も忘れ難いが、その彼女と対等に芝居するエル・ファニングの才能は、これまで天才と謳われきた姉のダコタ・ファニングを上回るのではないだろうか.
今回の映画で、演技がうまい事を知らない少女アリスをそれ以上にうまく演ずる事が、彼女の才能の奥深さの証明になっている.漫画『ガラスの仮面』の北島マヤと共演してほしいくらいだ.女優としてのこれからの成長が楽しみである.
コートニーの素人的な純真無垢さとファニングの洗練された複雑さがうまくとけ合って、困難に負けないこのふたりの初恋物語は応援したくなるほど愛おしい.
頼れない片親のもと、傷つき寂しく過ごす二人が少しずつ心を通わせていく過程が可愛くて美しい.
最近観られない純愛をロマンティックに、時にユーモアと切なさもまじえて表現している.
この二人の他、映画監督を夢見るボス的なチャールズ役をライリー・グリフィス、ゾンビ役をこなしながら、火や爆発も大好きなケーリー役をライアン・リー、ハードボイルドな探偵役を務めるまじめそうなマーティン役をガブリエル・バッソ、プレストン役をザック・ミルズがそれぞれ好演している.
ここまで子役をいかせるのは、エイブラムスが少年のような心をいまだに持っているせいかもしれない.
この六人のこどもたちの奮闘ぶりを観るだけでこの映画の価値がある.Sci-Fi 映画として観に行くのではなく、思春期物語(元服前ともいうのだろうか)の映画として観に行くのがベストであろう.
もちろん、大人の役者も捨てたものではない.
テレビで大活躍のカイル・チャンドラーと、『砂と霧の家』(House of Sand and Fog)以来あまり見かけなかったロン・エルダード.
最愛の妻を亡くし、内面耐えられないほど苦しくて、一人息子とどう接していいかわからないまま、街の安全を守る任務を一人背負い奮闘するジャクソン役のチャンドラーと、妻に逃げられ、泥酔ばかり、愛おしい娘も不甲斐ない自分さえも面倒見切れないルイ役のエルダードが、メインの子役二人に追いつかないまでもシングルファーザーの味を出している.
しかし、ジョーとアリスの関係が繊細さを持って表現されている中、ジョーと彼の父ジャクソン、アリスと彼女の父ルイ、ジャクソンとルイ、ジョーとチャールズの関係が安直で描き切れていない.

© 2011 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

役者が一番の映画だが、エイブラムスらしくふんだんに使われたCGも見どころがある.
特筆すべきは、列車事故.アクション映画ファンには是非劇場で観てもらいたいパワフルなシーンの山積み.爆発が続き全てが飛びまくる中、こどもたちがアクションスターさながら逃げまくり、皆無事でよかったと手に汗にぎるシークエンスである.音響効果も凄まじい.
そしてキューブ状の白い物体.こどもでなくても欲しくなる逸品.これの活躍の場がもっとほしかった.プレビューを観て、これがかわいいE.T. に変わるものかと誤解していた.

キャラクター、CGともに満足できるこの作品の一番の落ち度は、スーパーエイトの売り物であった「何か」、謎の宇宙生物である.
師のスピルバーグの映画のように、「何か」は姿を現さず人々の恐怖感をつのらせる.
しかし、登場機会を逸し、観客を待ち疲れさせたこのモンスターは、不可解さを不愉快に変える悲しいもう一人の主人公だ.
ここでエイブラムスとスピルバーグの違いが顕著に出ている.
スピルバーグの監督作品であったら、クライマックス近くのストーリーラインとともに、観客が共感し夢想するまでになる「何か」であっただろうし、小学生低学年でも楽しめる映画になってもいただろう.
だが、良しも悪しきも、これはエイブラムスの映画なのである.
エイブラムスの「何か」以上に残念なのがこの映画の終局の迎え方である.「何か」を描き切れないまま、腑に落ちない、安易すぎる、面白みのない終幕は尻つぼみで勿体無さ過ぎる.
皆を待ち切れないほど楽しみにさせ、スリル感をよび、メインキャラクターに共感させておきながら、びっくり箱の真の中身がこれではやり切れない.

後味の悪さを忘れさせてくれるのがエンドクレジットから流れる最高のプレゼント.
エイブラムがこれはモンスター映画だ、と言うのはモンスター=エイリアンではなく、こどもたちが創っていたモンスター映画の事なのかもしれない.
宣伝効果があだになって期待し過ぎてしまった人や Sci-Fi 大作を待っていた人には物足らない映画だが、ノスタルジアを感じ、こども時代を懐かしみたい人には正解の、初夏特有娯楽作品である.
出演しているこどもたちと同世代(中学生)には、スピルバーグの初期作品とともに観てもらいたい.そして、これを機会に映画創りや何かを創り出すことに精を出し、自分なりのヴィジョンを培うきっかけになってほしい.

追記
この映画を観て過去の作品を思い出す事が容易にできる観客も少なくないであろう.
スピルバーグ監督作品;激突!(Duel)、続・激突!カージャック(The Sugarland Express)、ジョーズ(Jaws)、未知との遭遇(Close Encounters of the Third Kind)、1941、E.T. (E.T. the Extra-Terrestrial)、ジュラシック・パーク(Jurassic Park)、宇宙戦争(War of the Worlds)、スピルバーグ製作作品;ポルターガイスト(Poltergeist)、スピルバーグ製作総指揮作品;グレムリン(Gremlins)、バック・トゥ・ザ・フューチャー(Back to the Future,)、グーニーズ(The Goonies).
スピルバーグ以外の映画では、スタンド・バイ・ミー(Stand by Me)、エイリアン(Alien)、そして自身が製作したクローバーフィールド/HAKAISHA(Cloverfield).
映画通ならどのシーンがどの映画を思わせるか思い出すのもいいかもしれない.
最後のシーンが終わり、エンドロール始まってすぐにシーンがまだ続くので、席を立たずに、このおいしいセグメントを是非堪能してほしい.

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