ヤギと男と男と壁と(原題:The Men Who Stare at Goats)
[PR] ヤギと男と男と壁と [Blu-ray]
ストーリーライン、勢揃いした俳優陣、風変わりなタイトルなどが映画ファンの興味をそそった映画ヤギと男と男と壁と.信じられる範囲を超える事実をもとにしていると注意書が付くが、真実は小説より奇なりだろうか.常識を超えたいわれるこの映画も、超能力者が多く出てくるアニメを見て育った日本人にとっては、アメリカ軍隊が舞台とはいえさほど驚く事でもない.
ベトナム戦争で負傷して以来「優しさをどう強さに変えるか」という疑問の答えを探し旅に出ていたビル・ジャンゴ(ジェフ・ブリッジス)が、6年の月日を経て陸軍に戻って来る.新地球軍マニュアルを書いた彼の目的はこの地上から争いをなくし、愛、平和、そして調和をモットーとする戦士僧をつくる事.
一方、フランスがばらまいた嘘 − アメリカが超能力を使って原子力潜水艦に連絡が取れるよう準備を進めている − をロシアが真に受け、独自で 超能力の研究を始めたという情報が入る.そのロシアに超常現象戦争で負けまいと、アメリカ軍上部は新地球軍の援助を開始.
ジャンゴ率いる新地球軍の兵士達はニューエイジ思想に基づき、念動力 サイコキネシス、透視能力 クレヤボヤンス、予知能力 プレコグニションを鍛えるため様々な訓練に励む.踊りまくったり、目隠しで運転をしたり、火のついた石炭の上を歩いたり、ヨガをしたりする中、兵士の一人リン・キャシディ(ジョージ・クルーニー)は、スーパー・ソルジャー/ジェダイ・ウォリアーとしてめきめき腕を上げていく.
超能力開発、平和の戦士、政治と軍隊、イラク戦争、拷問、ジャーナリズム、自分の存在する意義は何か、という様々でどれをとっても注目に値する要素を持ちながら、期待に反し深みのないできになっている.
違った年代の過去と現代が交錯しあったストーリーの展開は、どちらつかずでうまく噛み合わない.所々に残る多くの違和感は、監督の演出の仕方と脚本の力不足のためであって、編集者がいくら技術でこなそうとしても無理.どこまでが本当でどこからが作り事か興味のある人にも、そう思ってしまう事自体がかえって邪魔になり戸惑ってしまう.盛り上りそうで盛り上がらない、結局は沈んでしまう話の流れにがっかりするばかり.
コメディとして笑える部分は各所にあるものの、残念ながら数が限られている.
笑いだけでなく、何かを一途に信じる者たちの魅力は豪華な配役のおかげでそこそこ伝わるが、 監督の不甲斐なさと脚本の物足りなさが原因で、真義を強調しようとしてもそれがうまく表されていない.いくらクルーニーの友人とはいえグラント・ヘスロヴは監督をせず、ピーター・ストローハンの代わりに得意の脚本を担当し、他の監督にメガホンを取ってもらっていたらと思ってしまう.
ここまでつきあわせておきながら何?という腰砕けな最後にも満足できず、裏切られた感じがする観客も多いだろう.勿論、監督の不十分さ、脚本の至らなさを補うのが俳優陣.
リン役のジョージ・クルーニーは、二枚目でありながら三枚目になることを恐れず無理なく演ずる稀な役者のひとり.今回もこれをうまくこなしている.
ビル役のジェフ・ブリッジスは、映画『ビッグ・リボウスキ』(原題:The Big Lebowski)のデュード役を思わせる自然体の演技で観ていて温かい.
ラリー役のケビン・スペイシーは、彼独特の鋭さに欠けるが、存在感はいつも通り.もう少し彼に出番があれば良かったのに.
ディーン役のスティーブン・ラングは本当に信じて壁をつきぬけようとする時の顔がすばらしい.映画『アバター』での悪役ぶりでやっと一躍有名になった彼だが、芝居のうまいいい役者だ.
物語の語り手ボブ・ウィルトンは、映画『スター・ウォーズ』シリーズでジェダイ・マスター、オビ=ワン・ケノービを演じたユアン・マクレガー. 他の俳優でもよかったのだろうが、映画通にはこのジョークがうれしいかもしれない.クルーニーが真顔でジェダイについて説明し、自分がジェダイ・ウォリアーだとマクレガーに言うシーンでは彼同様笑ってしまう.彼がフォース(一種のエネルギーでジェダイの超常的な能力の源)という言葉を出した時は少しやり過ぎかなと感じた.この映画は、映画俳優(スティーブン・ラングは舞台俳優でもあるが)を見に行くならいいが、ストーリーを重んじる人には悔やまれる作品. DVD が出るのを待ってもいいだろう.ただ、この映画に出演している俳優達は他にいい作品があるのでそちらを観るのがいいかもしれないが.
関連記事
ヤギと男と男と壁と(原題:The Men Who Stare at Goats) の あらすじ、ストーリー(Plot Summary、Synopsis) を読む
ヤギと男と男と壁とのサウンドトラックを聴く