ガフールの伝説(原題:Legend of the Guardians: The Owls of Ga’Hoole)
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この作品は、アメリカの小説家キャスリン・ラスキー(Kathryn Lasky)が書いたファンタジー物語 『ガフールの勇者たち』(Guardians of Ga’Hoole)を映画化したもの.小学4年生位から中学生を対象にした、フクロウ界の夢、愛、冒険と戦いを描いた神話的な本で、全15巻のうちの3巻を基に映画が創られている.
ディズニー、ピクサー(現 ウォルト・ディズニー・カンパニー子会社)、ドリームワークスが、アメリカの長編アニメーション映画の世界を独占する中、カートゥーンアニメーション(カートゥーン映画)黄金時代の担い手、ワーナー・ブラザースが新作を公開するというニュースは、ファン達の胸を踊らさせた.
予告動画を観てもわかるその華やかで美しいアニメーションに、3Dという効果を加えて、視覚の隅々まで満足させてくれる.
光とリフレクションを肉眼でここまで観られる事自体感無量である.
息をのむ多数の飛行シーン.驚嘆するフクロウの羽の動き.
風光明媚とはこういう景色の事か、と思わせる美景の数々.目を見張るほど澄み切った空、水、夕日、夜、月、そして風.
特にソーレンが嵐の中飛ぶ姿は、筆舌に尽くしがたい.
水、水滴の美しさをCGで初めて見せつけてくれたのはピクサー映画『ファインディング・ニモ』(原題:Finding Nemo)であった.ライティングの完璧さが、海の表面を現実的に奥底を幻想的に醸し出していた.
その秀作『ファインディング・ニモ』を超えるほどの『ガフールの伝説』スタッフの技術にただ驚くばかり.
照明、色彩など、様々な形でこのアニメーションを創作する事に関わった人々に脱帽.
オーストラリアが誇るアニマル・ロジックとヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズは、崇高美の世界を観客に見せる事に成功している.ストーリーはティト森林王国に住むメンフクロウの子ソーレン (声 ジム・スタージェス ) の家族を中心に始まる.正道に立ち弱きを助ける「ガフールの勇者たち」と世界征服をもくろむ選民思想的な「純血団」の戦いの伝説を聞いて育ったソーレンは、いつか自分も勇者になる事を夢見る.
両親が留守の間、ソーレンは兄のクラッド(声 ライアン・クワンテン)にうまく木々の間をジャンプできるか挑戦するが、ふたりとも誤って地上におちてしまう.そこへ現れた純血団の手下に連れ去られた兄弟は、同じように両親の元からさらわれてきた幼いフクロウたちが「月光麻痺」という催眠術にかけられ、奴隷のように働かされている事を知る.
ソーレンと小さなサボテンフクロウのジルフィー (声 エミリー・バークレイ) は、純血団幹部キンメフクロウのグリンブル(声 ヒューゴ・ウィービング)に助けられ脱出するが、 クラッドは純血団頭領メタルビークのつがいナイラ(声 ヘレン・ミレン)に気に入られ純血団に残る事を選ぶ.ソーレンとジルフィーは、道中出会ったアナホリフクロウのディガー (声 デビッド・ウェナム)とカラフトフクロウのトワイライト (声 アンソニー・ラパーリア) と一緒に、ガフールの勇者たちに助けを求めるため、神木のある伝説の源、フール島を目指すのだった.
第二次世界大戦を思わせるシーンが数々あるが、善と悪、光と陰がこの作品のテーマである.
その光と陰を象徴するソーレンとクラッドの兄弟の確執が描き切れていない.クラッドがどうして悪の道を進むのか、彼の内面の葛藤が全く存在しない.弟と妹を犠牲にしようとする心の内が皆目読めない.
こういった大切な中核以外にもつじつまが合わず説明不足に終わる部分多々ある.
本3冊をひとつの映画にするということには無理があるのだろう.ヒゲコノハズクのエジルリブ(キールのライズ)に出会い、戦争の真実を知り、伝説がいかに美化されていたかを悟るソーレン.戦う事は夢でも憧れでもない事を追求する重要なシーンも尻つぼみに終わる.
脚本の未熟さから対話にもシャープさが欠け、いくらビジュアル、技術と役者が良くても話に深みがなく心が離れてしまう.目と耳が賞賛の拍手を贈っても、頭と心が満足できないのは、歯ごたえのない話のせいである.
もしもこの映画が興行的に成功して続編を創るとしたら、是非とも違う脚本家を雇うべきだ.
成功しているアニメーション映画が示すように、美術面だけではなく、ストーリーの中身の濃さが重要なのである.こんな稚拙なシナリオの域を超えようと一流の俳優ががんばっている.
エジルリブ役のジェフリー・ラッシュが、味のある渋い老戦士を見事に表現.
ソーレンの友人役のデビッド・ウェナムとアンソニー・ラパーリアが、シリアスな映画において絶妙なタイミングでコミカルにユーモアを交ぜたフクロウたちを演じている.
オーストラリア出身の俳優がほとんどの中、イギリス人ヘレン・ミレンがナイラ役で冷たく美しいフクロウを好演.もっと彼女の出番があればいいのにと思ってしまう.彼女は何をしても誰を演じてもファンを感嘆させてくれる.フクロウでありながら、このナイラは、映画『極道の妻たち』の岩下志麻を思わせる.子供向けの映画のはずだが、戦うシーンはすごみがあって怖い.しかし、周りの子供たちは全然怖がっていず、子供を連れてきた親の方がかえって不快感を感じていたのは対照的.
バイオレンス映画『300』で有名になった監督ザック・スナイダーは、彼自身の6人の子供に感想を聞いたという話だが、血は飛び散らないにしても鎧や鉄のぶつかる音のリアル感もすごいので、迫力ある戦闘シーンは小さいお子さんには向かないだろう.鳥類学者でもないしどのフクロウが誰なのかわからないという人は、映画を見る前にキャラクターを見極めておいた方がいいかもしれない.